AKIRA KUGIMACHI

Sally Born / サリー・ボーン

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「A FORCE DE REGARDER AU LIEU DE VOIR 展覧会カタログにて」

 

P36〜39

釘町彰が、《Spectrum Horizon》という作品で我々に見せてくれるのは、いわばリアリティ(現実)の抽出と、自然界の形(フォルム)の抽象化というプロセスを通して為される、自然界を構成する諸要素の再構築とでも言うべきものである。
自然はそこで、一度、”脱-風景”化され、そしてまた、風景を構成する諸要素を一度無に帰することで、色の広がり・光・物質性・地平線という一種の永遠性を獲得する。それは芸術の近代的表現(モダン)の域を超えて、自然そのものの原型を再び見いだす-再発見する-という全く新しく現代的な試みなのである。
さらに言うと、釘町がこの作品で示唆している自然の構成要素とは、仏教で言う五大要素、地・水・火・風・空であり、それが色彩の選択を決定付け、またそれらの色彩はは相互に接し合い、干渉し合い、時には反発氏ながら、変化を繰り返し、世界を作り上げる。作品のフォーマットそのものとして、言わば象徴化された水平線は強調され、縦32cm、横幅6m近い一本の線に結晶化された色彩はその中でスペクトルのようにもつれ合う。
釘町は和紙に揉み紙を施し、されにそれを広げてパネルに水張りする、という技法は、彼の作品の中で、光と距離、そして時間という3つの柱からなるコンセプトを一体化するための技法として用いられる。彼は、その独特の手法において、作品を、絶え間なく動き続ける自然要素の時間的無限性と、その永遠性という両方の境界線上に位置させているのである。 彼の絵画作品の中で、我々は、ランドスケープという美学的経験において、距離と移動の概念が改めて問い直されるのである。
それは、見る視線と、見せられた世界との間に距離がなくなるということではなく、視線の位置付け自体が通常とは異なるのであって、それは時には事象のまっただ中にあってそこに距離を挿入する、あるいは事象の内側において距離という概念を創造するのである。もはやそれは傍観者の視線ではなくなると言えよう。特に《Spectrum Horizon》においては、上と下、そして水平と垂直という方向性自体が、ある種の物質性、またはマチエールそのものとなり、そしてそれらが上下左右置換で変異可能な浮遊的世界として展開されている。
この作品の中で、空間は光そのものとして表現されている。メルロー=ポンティが著書『眼と精神 (L'Oeil et L'Esprit)』において表現した様に、「光は遠くのアクト(行為)として捉えられ、それは接触という行為に帰するわけではなく(11)」、距離を保ちながら単一の視点、単一の光源からのみ事象を照らし出すのである 。釘町はこの絵画作品で、アートがその力において発揮すると言える、空間と視線の拡張および宇宙的広がりを獲得しているのである。

 

p59

釘町彰の絵画は、人間の視点、そしていわゆるランドスケープと言う概念を構成する諸要素、その双方の関係性を主題とし、問題提起することで、欧米の美術史上における風景画と呼ばれるものが置き去りにし、そして忘れ去ってしまった重要な何かを私たちに提示し、意識させ、またその体系的な理論化すらを行おうとしているのである。
彼の絵画は、様々な多用的影響を織り交ぜながら、風景を自然そのものとして捉え直し、それを視覚的に再構築することに到達しているのだ。
先にも触れたが、彼の作品は、西欧近代における風景画という領域を超えて、脱-風景された自然の、いわばランドスケープの構成要素における一種の無限性を再認識へと我々の視点を導くのである。
また釘町彰は彼の作品の中で、自然界の形の抽出と、結晶化された現実、そして世界の抽象化、それらのプロセスを通して、世界のカオスの流れの瞬間と永遠性を同時にイメージ化し、引き出すという行為に到達しているとも言えるだろう。
彼の絵画は、変化そのものから生まれ存在するのである。
彼の作品は、物質性のダイレクトな抽出と、真に理論的な抽象化の技との両方の間に存立している。そして、物質性の凝縮とも言える、非常に濃密でマットな揉み紙を施した和紙の表面に現れるのは、無限空間に存在する光の顕現なのである。《Waves》シリーズにおいては、そのタイトルからも水の世界に呼応していると想像できる作品だが、実際そこに表された世界は、地球から抽出された天然顔料の岩石や土という素材から構成されており、それらはまるで各要素の物質性そのものに入り込んでいるかのようにも受け取れる。
この画家が、その作品の中で使用している、自然界からダイレクトに抽出された鉱物性の顔料や貝殻からなる胡粉絵具の(例えば《Lightscapes》に見られる真珠光沢の乳白色は胡粉という牡蠣から成る絵の具が使用されている)や、和紙等の特殊な素材の探求は、日本の伝統芸能や職人的技術の範疇を超えて、美術史的な観点から現代アートにおける展開として、物質性そのものの概念への問題提起となっているのである。
《Les Waves》であれ、《Lightscapes》であれ、彼の作品の中に我々が最終的に見出すべきものは、世界の見方、理解の仕方、そして世界の内側へと入り込む人間の在り方、そしてまた、“見る”という事そのものに対する一つのマニエール(様式)であり疑問提示なのである。

釘町彰は日本を始め、フランスやアメリカの現代アートフェアに出品、2003年新生堂にて「Lightscape」でデビュー、2010年日本橋三越にて「釘町彰展」、2011年パリ、エリック・ミルシェールギャラリーにて「Tragique du paysage」等、数々の個展、グループ展にて活動を展開している。