AKIRA KUGIMACHI

千住博

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「永遠なる宇宙の気配」

釘町彰さんは私が最も信頼している若い画家です。かつて私が日本に住んでいた時、助手をしてもらっていた時期もあります。その頃彼は多摩美術大学大学院の学生でしたが、明晰で知的な頭脳の持ち主で、無理難題を事もなげに解決してくれたものです。

大学院修了後フランスに渡り、今日に至っています。その中で少しづつ画風を確率して来たのですが、近作に接して、一つの確固たる世界に到達したな、と心強く感じました。

それはどこまでも澄んだ、透明感のある世界です。描く風景には人は一人もいません。しかし画面全体を支配するものは、孤独感という事ではなく、何かがこれから始まっていく様な、予感を秘めた世界なのです。

そのひんやりとした無人の光景は、この風景の彼方から何ものかの“訪れる”気配に満ちています。それを感じさせる、という事は確固たるコンセプトと、それを裏付ける抜群の描写力の双方なくしては到底あり得ない事です。

彼の描く“訪れ”の気配、それは20世紀的モダニズム世界を背景にしながら未来を見据える、全く新しい時代精神と言えます。いまだ見えない何か、それが結局文明生活の側からくるのではなく、しかしそれを否定するのでもなく、まさに海や水なる永遠を象徴する存在の彼方から、時をも越えてやって来るイメージです。

その訪れるものは何なのか、そしてどこから来るのか。ホーキングの宇宙論に照らして考えてみるなら、それは永遠の宇宙の気配、とでも言うべきものでしょうか。

その様な、言ってみれば文明の側から“大いなる地平”を目を凝らして注視し続ける姿に、私は21世紀を生きる知性のとらえた美的感動のリアリティーを感じるのです。彼の美の世界は、全く宗教性を感じさせないものです。しかしそれはプラトン的世界観の否定でもなければ、虚無主義でもありません。そこに存在するのは、宗教やイズムをも越えた、芸術そのものへの問い掛けの姿なのです。 釘町彰さんの絵画には、芸術の未来があります。

千住博