空間内には 4 つのピース、正方形のモノリス「Gandate」、黒い虚空に光のみを描いた「Lightscape(光景ー世界の起源)」小坂の滝が流れる岩場の窪みを描いた「Osaka」、そして作家が今回初めて手がけた彫刻作品「Unknown」、また絵画 2 点 (Gandate、Osaka)に投影される映像作品とライティングで構成されている。

　インスタレーションの中心的構造は、中央にあるモノリスを思わせる四角い物体=絵画となっている。そこに描かれた岐阜県下呂市にある巌立峡は、作家が独自に 取材した特定の風景であると同時に、どこにあるかわからない不特定の(地球上、あるいは別の惑星の)風景のようでも ある。 それらの作品全てが空間内で時にリンクしたり時に暗闇に包まれて見えなくなったり、またある時には時間差で独自に動 いたり、あたかも小劇場で演者が点在するようなインスタレーションの構造に挑戦している。

　墨を何層も重ね、和紙を揉んだ凸凹の表面に貝殻を砕いた胡粉を多層的に重ね乳白色にした下地の上に天然岩絵具で描か れた Gandate と Osaka、二つの絵画作品は時に別世界を映し出すスクリーンとなり、水の流れや森林、作家が日々撮り溜 めてきた日常的な風景がランダムにダブルイメージとなってビルトインされる。その中には宇宙や美術史の場面、胎動を 思い起こさせるような光の渦といったイメージが散りばめられている。また時折、フランス語によるジャック・プレヴェ ールの詩 "Le Paysage changeur( 景色変換係)" が朗読される。徹底的に反戦、反権力であった詩人が、資本主義への懐疑 心を想起させながら、一見無関係と思われる人間と風景との関係性を表現したこの詩を引用することによって、絵画や映 像の、人間世界とはかけ離れた風景にレイヤーとなって重なる事で、人間世界と風景との関係性における多重的な疑問提 起を促す。

　もともとこの詩のタイトルは "Le Paysage changera(風景は変わるだろう)" だったのだが、印刷所の誤謬によ り "Le Paysage changeur(景色変換係)" となってしまったものを詩人がそのまま採用したというのがこの詩の題名の経緯 であったのだが、ここではその元となる "Le Paysage changera" の方を映像のタイトルとしている。 また彫刻作品は、和紙を揉むことによってできたランダムな形をスキャンした後にさらにコンピュータ上で形を細かく手 を加えて 3D プリンターで拡大印刷している。藍色の半透明樹脂でできた立体の上に作家は GANDATE で描いた絵の具と 同じ、天然の岩絵具 " 電気石 " を用いて塗布している。

　一見カオスに見えるこの彫刻は、宇宙から飛来した隕石か、もし くはあたかも数万年後に発掘された人工物の痕跡が自然の土壌から顔を出しているようにも見える。 人間の尺度を超えた時間の流れを想起させる絵画・映像インスタレーション、彫刻は、空間全てで私たちの存在の不安定 さを想起させると同時に、人間と人間以外の流動的な関係性を想像させ、観るものそれぞれに生の一過性と同時に、まさ に来たるべき世界を想像させる。